ドクター山見 公式ウェブサイト:ダイビング医学・潜水医学 diving medicine 減圧症(decompression sickness)  
減圧が原因で起こる障害を総じて減圧障害(decompression illness)といいます。ここでは、減圧障害のひとつである減圧症について説明します。

    はじめに…
 潜水が原因で起こる障害を総じて潜水障害(diving injury)といいます。減圧症は、ダイビングの後に身体内に気泡を生じたものをいいますが、減圧症は動脈ガス塞栓(arterial gas embolism)と鑑別困難なケースも多いため、いずれかはっきりしないときには減圧障害(decompression illness)と診断されます。
潜水病という言葉は、潜水障害、減圧障害または減圧症の代用語とされていますが、いずれの病態を指しているか明確でないので医学的には用いられません。

   減圧症を理解する為の予備知識
 スクーバダイビングでは、通常、空気ボンベを使用します。空気の約79%は窒素ですが、この窒素が潜水中に身体に溶け込みます。窒素は、潜水深度が深ければ深いほど溶け込みやすく、潜水時間が長ければ長いほど多く溶け込む傾向があります。ダイビングの終盤に、海面近くに浮上して、水圧がかからなくなると、それまで溶けていた窒素が身体内で気泡化します。気泡を作らないためには、減圧速度(浮上速度)が非常に重要であり、多量の窒素が溶解していても、浮上速度が十分に遅ければ窒素の気泡化は起こらず、減圧症は発症しません。減圧時に気泡化した窒素が、たとえ微量であっても身体内のどこかに留まってしまうと減圧症が発症してしまうのです。
 レジャ−程度の潜水(潜水深度が20〜30m前後、1回の潜水時間が30〜40分前後、1日2ダイブ程度)であっても、気泡(マイクロバブル)が出現することは珍しくなく、その気泡は、静脈系に集まり、心臓を通過して肺まで運ばれ、肺の毛細血管にトラップ(フィルター機能によって捕捉される)されます。気泡の量が少なければ、肺の塞栓症状は出現せず、呼気として排泄されます。最近、減圧症予防のために、窒素の割合を少なくしたナイトロックスボンベ(エンリッチド・エア・ナイトロックス:酸素32%、窒素68%、または酸素34%、窒素66%のガスが充填されたボンベ)を使用した潜水も普及しつつあります。


    減圧症発症のメカニズム
 身体には、気泡のできやすいところと、気泡はわずかでも症状が出現しやすいところがあります。関節は気泡のできやすい部位であり、脊髄は気泡が少なくても症状のでやすい組織といえます。関節にできた気泡は、痛みや違和感を起こします。脊髄にできた気泡は、知覚障害、運動障害、自律神経症状(膀胱直腸障害など)を起こします。

 また、組織には窒素が溶けやすく(拡散しやすく)排泄されやすいところと、溶けにくく排泄もされにくいところがあります。脊髄は、血流がよいため、溶けやすく排泄されやすい組織であり、半飽和時間(最大溶解量の半分の量が溶ける時間)は非常に短く12.5分といわれています(吸収と排泄が同じ時間と仮定した場合)。一方、骨や関節の半飽和時間は非常に長く304分ー635分といわれており、溶けにくく排泄されにくい組織といえます。また、筋肉は、安静にしているときと運動しているときでは、血流が10倍以上も違うため、その状況に応じて半飽和時間はまったく異なります。
  以上の理論に基づけば、深度が浅くて潜水時間が長ければ、少々減圧(浮上)に時間をかけたとしても、関節周囲に気泡を生じやすく(職業ダイバーなど)、深くて短く、浮上速度が速いほど、脊髄の障害を起こしやすいということがいえます(レジャーダイバー)。減圧症は、職業ダイバーに発生頻度が高く重症なケースが多いと思われがちですが、現在外来を受診される減圧症のほとんどはレジャーダイバーであり、そのほとんどは脊髄障害を伴っています。
   

原因&誘因
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